「一人目のゲストです」

ステージの上でポツリ、椅子に座り、ギターを抱えている男。ここからでは顔がわから ない。いったい誰だろう。ライダーズのアニバーサリーにやってくるゲスト?うーん。 思い当たる節が多すぎるからなぁ。

いぶかしんでいるうちにも、アクゥースティックの弦が爪弾かれ出す。このメロディ。 この歌声は?

会場内がざわめいている。予想を越えた事態に驚いているというよりも、ただ単に、今 何が起きているのか把握できない故の動揺といった按配。とまどいに満ちた波動は、そ のままステージに跳ね返っている。

「かしぶちさんだ... ですよね?」

確信を持てない僕は、隣のボーイ(オーバー40)に助けを求める。

「んー... です、ね」

おやおや?弱気な口調だぞ(笑)20年来の、筋金という筋金が張り巡らされたファンに してこんな具合。ざわめきが蔓延するのも仕方がないだろう。

流れてくるのは『リラのホテル』。矢野さんと組んだかしぶちさん(当時は"橿渕"の表 記)の名作、そのタイトル・チューンだ。

ライダーズきっての耽美的ロマンティスト。いつまでも二人きりのかしぶちイズムから は遠くかけ離れた、ラフで質素な出で立ち。心ある(笑)誰かのイタズラかとも思ったが、控え目に震え る唄声はまさしく彼自身のもの。

それにしても、ゲストとは?早くも仕掛けられた罠に囚われた心境。と、あくまでもさ りげなく席を立つかしぶちさん。最後までとまどいの消えなかった観客席。パラついた 拍手がそれを物語っている。熱狂的なかしぶち・フリークにとっては、どうにも心痛む 光景。もう一度、ここから思いっきり拍手を送りたい。ありったけの愛を込めて。 (ほんの少し落とし穴が大きすぎたようですぜ、ライダーズの旦那方)

「つづいて二人目のゲストです」

歓声が上がる。名前を叫ぶ野太い声が響き渡る。この人だけは見間違えようがないな。 ギターを抱えて一人ステージにたたずむ。体に似あわない(笑)スリムな両足を半ズボン からのぞかせながら、白髪まじりの頭を振り回しコードかき鳴らす。『お洒落してるネ お嬢さん』。おいおい、こんな明るいうちからなんてことするんだ。思わずツッコミた くもなってしまうよ(意味を取り違えないようご注意ください)。レコードでもこの曲 だけはヘッドフォンで聴いたものだ。一人暮らしを始めるまでは。

元曲に忠実でない歌詞。いや、まさしく正しい歌詞なんだろうが、こいつは間違っても NHKじゃ流れないだろう。かつてサウンド・ストリートでは『NO.OH』 でさえカット されたのだから(そういう問題じゃないって?)テープが奏でる間奏も数段バージョン ・アップしているし。世界初なんじゃないか?こんな大音量で×××声を発するなんて。 しかもP.A.付き(笑)

てらうことのない悪戯につづき、幻のバンドが登場する。

「アート・ポート!」

退場の際、誇らしげに叫ぶ慶一さん。そうか、"ゲスト"というタームには、そういう意 味が隠されていたのか。まさしくムーンライダーズにとって、一番相応しいゲスト達だ。 続いていくために彼らが選んだ手段。いや、彼らだからこそ選択できた方法といえるだ ろう、バンド内独立民主制度。ムーンライダーズは国境を持たない連邦共和国だ。一人 一人がそれぞれの領土を持ち、互いに尊重し合い、時に競合し合う。鈴木慶一、岡田徹、 かしぶち哲郎、武川雅寛、鈴木博文、白井良明という類いまれな才能たちが、ただ一つ の名の元に集う瞬間、バンドとしてのムーンライダーズがその雄志をあらわにする。

第1部では、そのネイティブなバンドとしての姿を見せてくれた。肉体を鼓舞する意図 もあっただろう。衰えていく自然の摂理は誰にも厳しい。何より痛感したのは彼ら自身 かもしれない。彼らにとって、完膚なまでの演奏を再現するのは困難なことではなかっ たはずだ。あえて晒した20年目のブロークン・ハート。その意味を今また噛み締めさ せられる。