「A1グランプリです」

ドウォッ!と巻きあがる歓声。はにかんだ声が伝える慶一さんの顔。照れ笑いを懸命に 飲み込もうとしているかのよう。「楽しんでるかい?」って素直にきいたりはしない。 そんなところにさえシンパシーを抱かせてしまう20年。

夢でも聴いたこのイントロ。架空楽団のVIDEOを何度見返したことか。岡田さんの 手元もかわいい『ヴィデオ・ボーイ』。当時、良明さんだけが所有していたというヴィ デオ・デッキで、彼らはどんな映像を眺めていたのだろう。パノラマの底に鎮座するス テージで、今どんな光景を噛み締めているのだろう。

"俺"から"僕"へ、"おまえ"から"君"へ。一足飛びのタイム・トラベルは、早くも王冠を 脱ぎ捨てる時代にさしかかっている。


「80年代突入!」

高らかに響く宣言。バラバラの"愛してる"がコナゴナに飛び散っていく。『彼女につい て知っている二、三の事柄』。かしぶちさんのスネアが小気味よく跳ねる。あれ?こん なベースラインだったっけ?良明さんと武川さんのアクションに挟まれても、じっと我 が道を行く博文さんが凛々しいぞ。客席のあちこちで飛び散る汗。太陽の下ではコーラ 色に染まることはないけれど、こんなに風が似合うとは思いもしなかった。

青空の中でムーンライダーズ。

ジョセフ・ボイスのポスターが一輪の薔薇を差し出す『Kのトランク』。MC-4が疾走す るビートは今やマックのハード・ディスクに埋もれてる。テクノロジーの進行スピード は、記憶の拡張をはるかに凌駕して、指先の感度だけを高めていく。今、あからさまに クリックを捨て、肉体にこだわる男達。誰よりも先に旅の支度を終えてきた彼らが、崩 れかかるグルーブを間合いと気合いで繋いでいく。武川さんのトランペットが光の速さ で別れを告げる、と、過去が一つずつ消えていくかのよう。

今日は特別ゲストがあるそうだ。この曲を聴くと浮かんでくる顔。『僕はスーパーフラ イ』。イントロの擬音に大笑いしていたら、ふいにコモン・マンのフレーズが頭をよぎ り出してしまった。脈略も無しに込み上げてくる浮遊感。十数年前、相棒に初めて聴か せたアルバムは"青空百景"だ。共に打ちのめされた"EXITENTIALIST A GO GO"。 今は無 い部屋で浸った"EGO"。あまりにも鮮烈な記憶。染み込んだ過去はいつでもどこでも よみがえってくる。彼らのサウンドとともに。

吊るされたダイナマイト。燃え上がる衝動はいったい何を壊したかったというのだろう。『Y.B. J.』ヤング・ブラッド・ジャック。 彼らに暴力は似合わない。異様に薄い低 域はP.A.のせいだけじゃないはず。オーガナイズする良明さん。振り上げられる拳。 この12年で一番多くの皮を脱ぎ捨ててきたのは、陽気な暴走ギタリスト、白井良明に 他ならない。

もう何度も嘘をつかれてきたように思うわけで(笑)、さすがに騙されることで快感を覚 える体になってしまった。『悲しいしらせ』の音色は、僕のうずくまったままの1985年 をえぐり出してしまう。シャレにならない身の上話は捨ててしまおう。彼らが差し出す ナンバーは、傷痕をえぐるナイフのように深く鋭く突きささってくる。気づかずに笑っ ているよりも、思い知らされて泣きたくなる方がまし。天国も地獄もこの目で見つめて いたい。

「ここでちょっと休憩です」

やられた。愛撫の途中でタバコに火をつける気だな?

いや、体を休めてもらうのは一向に構わない。ここまで続けざまに10曲。ご自愛くだ さい、と、思わず口に出してしまうほど。

肩の力がスカッと抜けたのは、今流れている『CLINIKA』のせい。僕は期待して いたんだ。幻となった歌詞が、かしぶちさんの唄で聴けることを。

さりげなくP.A.から流すなんて反則技もいいとこだっ(笑)