待ち構えていた僕らに届けられたのは、1996年の火の玉ボーイだった。

もう2度と見ることはかなわない、そうあきらめていたあの曲。いったい何度耳にした ことだろう。円盤に刻まれた『あの娘のラブレター』。

今、目の前にいるのは20年目の火の玉ボーイズ。奇をてらったアレンジでもなく、イ クイップメントを駆使した最新型でもない。ありのままの1976−1996。生身の 彼らが叩き出すビートは幾多の歳月を滲ませている。それは微妙に揺れるリズムであり、 ボトムの枯れたサウンドだ。続けることの重みであり、続いてきたことへの誇りだ。お そらくメンバーの誰もが忘れていたであろうコード進行。決めのタイミング。

態度や口には微塵も出さないが、この日のために流された汗が野音の風に舞っている。

間髪入れずに『紅いの翼』。記念すべきファースト・アルバムの冒頭を飾る曲。今では 幻ともいうべき岡田さんの作詞。単なるノスタルジーじゃないパリの灯は、19年たっ た今も鮮烈に揺らいでいる。あこがれのヨーロッパ。どれだけ情報社会が進んでも、憧 憬のまなざしに変わりはないだろう。目尻のしわがいくら増えても、脳裏に映るあの景 色は霧につつまれたまま。浪漫は決して暮れやしない。

夕日が照りつけるステージから、調子はずれのコーラスが届く。『ジェラシー』。わが ままばかりいっていたのは誰だ?僕は当時の彼らに出会えなかった。そっと隣に目をや ると、慶一氏と同じ年に生まれた友が目を細めている。しょうがねぇなぁって顔をして、 笑みをたたえている。70'sライダーズに出会えた喜びで声も出ない僕は、そのたるん だ目元に胸を熱くさせられるばかり。今日、共にいられることを誰に感謝しようか?こ のボンクラ頭を何に捧げればいい?

それにしてもなんて選曲なんだろう。共に歩む20年〜手に手をとって懐かしむ〜内輪 狙いの受け享受〜サイコロ転がしスカンピン?いや、違う。そうじゃない。断言してし まおう。これは、ファン・サービスにかこつけた、大いなる20年目のわがままだ。歩 みつづけるためのケジメとも言うべき回想。世紀末へ向けた一世一代の大自慢大会。

失いかけていた何かを取り戻すかのように自らを顧みる。俺達はいつでも先走って来た んだぜって、誇らしげな笑い声が聞こえてくるよう。次へ踏み出す一歩のための、アニ バーサリーなスペシャル・デェイ。彼ら自身が待ちわびていた、とてつもない記念日だ。 扇情的なリフが踊り出す。うぉっ!と声にならない吐息が漏れる。たまらず3mほど前 方の男性が立ち上がり、我慢の限界とばかりに腰をふり始める。僕らはとっくにスタン ディング・スタンバイ・オーケー!真夏にはまだ間があるというのに、飛び散る水しぶ きが体に熱い『スイマー』。見慣れないギターを抱えた良明さんが吠える。その大きな 体を折り曲げて武川さんが跳ねる。観衆の頭が細波のように揺れ始め、あちこちで舞う 旗がその勢いを増していく。

ところどころで落ちるサウンド・ポケットすら時代の香りだ。デジタル世代のライダー ズ・フリークは、このあくまで生身の彼らにどんな印象を抱いているのだろう。そんな 不埒な心配すら口元を緩ませる材料となる。所在なげなコンピューター・モニターの前 で揺れつづけているオーバー40's。肉体が踊る。汗が飛び散る。

ここまで来てやっと気がついた。なによりも愛しかったのは、ビニール製の円盤だ。針 を落とす瞬間はいつも緊張感と高揚感に包まれていた。とたんに溢れる音塊は、あたり まえだがA面1曲目。こいつがいつでも初体験だった。なんてこった。そういうことな のか。