と、いきなり驚かされる。唐突に現れた弦楽四重奏楽団。"フルムーン・クァルテット" と名付けられた四人の弦からは、ライダーズ・ナンバーが矢継ぎ早に繰り出されてくる。 開演を待ちわびる客席からは当然のように歓声が沸きあがる。元曲に忠実なリアレンジ と完成度の高い演奏。聴衆は礼儀正しく拍手で応えつつ、そのざわめきを増していく。 荘厳な音色に相反して盛り上がるお祭り気分。この心憎い演出はどうだ?彼らの誇りが ヒシヒシと伝わってくるじゃないか。自らへのトリヴュート。今日は誰にとっても特別 な日なんだ。

続いて登場したのはヴァイオリンとアコーディオンのデュオ。シンプルかつ豊潤な音色 が奏でる名曲の数々。あの楽譜が欲しいと呟く同居人の声を尻目に、僕の背中の毛は逆 立ったままピリピリと震えていた。ああ、もちろん僕も欲しいよ、楽譜だろ?また一緒 にライダーズ・ナンバーを演ろう。

"シェスタ"という名の宝石。演奏もさることながら楽曲の素晴らしさを改めて見せつけ てくれる。削ぎ落とされたサウンドが一層引き立てる、珠玉のメロディ・ラインたち。

まずはジャブで繰り出す罠ってやつか?こんなサウンドに浸りながら、いったいどこの 誰が"シェスタ(昼寝)"できるというんだ。まったくもってムーンライダーズ。だまし絵 に隠された月の裏側で、きっと舌でも出しているに違いない。

またしても意表をつかれる聴衆たち。ステージ上の階段中程で、シェスタの二人が未だ 歓声に応えているさなか、旗の元よりふいに姿を現わしてしまうなんて。まぎれもなく 彼らに違いない。月光下の騎士達。まるで散歩のついでに立ち寄ったかのよう。気負っ た空気は微塵も感じられない。一瞬とまどった客席は、一転火山の如く沸き上がる。降 り注ぐ歓声を浴びながら、彼らはゆったりとした足取りで、一人、また一人と階段を降 りてくる。




ツイン・リードの二人はアニバーサリーの旗を携えていた。最前列まで出てきて大きく 振り回す二人。呼応するかのように客席からも一斉に旗が上がり、打ち振られる。

入口で配られたのは紙製の小さな旗。傍らではすでに破れてしまったものもある。待ち わびた想いを伝えるには少々荷が重いようだ。この愛すべき小旗。誇りと汗にまみれた トゥエンティ。

ステージ上で振られていた旗が両サイドに据え付けられる。ひとしきり辺りを見渡した 後、おもむろに配置につく彼ら。フロントは向かって右側から良明さん、博文さん、武 川さん、そして、慶一さん。

最前列の4人がかしぶちさんを振り返る。と、次の瞬間には、あのイントロが僕らをく まなく包みこんでくれる。高層ビルと森に囲まれたコンクリートの楽園は、全てがムー ヴィング・ピクチャーのよう。スローモーションで動き出す、タイム・スリップの感覚。 夢うつつの心境とはこういうことなのだろう。10周年記念ツアーの記憶がオーバー・ ラップしてくる。ここはどこなんだ?いったい今はいつなんだ?