その無数のわがままを蹴散らすかのように、けたたましいビートで再び幕を開けるA1 (最高の)カーニバル。ランダマイズ編!

『スパークリングジェントルメン』。あの往年のディーボ・バージョン!行き先を知ら ない第3部のオープニングだ。

1996年のジェントルメンは素顔のままでパンキー・ファンキー。スロー・ペースの 時代に石を投げつけていたあの頃。当時の切羽詰まった勢いは、10数年経って今また ヘヴィーにフライトする。悪い夢でも見ているようだ(笑)もうとっくにあきらめていた 光景。肩の震えがとまらない。

腕を振りかざし叫ぶ。客席から一斉に旗が上がる。ステージから届けられるバイエルは 汗と鋼鉄の匂い。『工場と微笑』が時間の花を撒き散らす。相変わらずシーケンス・パ ターンは顔を伏せてはにかんだまま。彼らの鼓動がビートを垂直に割り続ける。時に平 行によろめくのも信頼できるオーバー40のしるし。

イントロのギターが鳴り響けばいつでも広がる景色。ここにはさえぎる屋根が無い。薄 黒く煙る東京の空に『青空のマリー』が駆けていく。鳶色の瞳と人影の消えた海を残し て。いくつの歳を数えても、見続けていたい空がある。がまん出来ない時がある。

象徴的なシンセサイザーが奏でるリフ。永遠に変わらない関係。変わり得ない気持ちへ の憧憬。『いとこ同士』は胸キュンのベースメントだ。岡田さんが生み出した至宝のメ ロディ・ライン。しかしてこの傑作は、終盤、はからずも大胆なアレンジへと変貌して いくのだ。思わず目が合った友と声をあげて笑い出してしまった。もちろん、彼らはそ んなつもりじゃないはずだ。今ステージ上を疾走している恐怖にも似た戦慄が異常事態 を示している。どうしようもないファンである僕は、歌詞を忘れたあの人の顔を間近で 見たいと願うばかり。

20周年に再び姿を現わした名曲は、はたしてその瞬間に伝説を産み出してしまった。 語り継がれるであろう、ヴォーカル・レスのリフレイン。見逃したファンの歯ぎしりが 聞こえるようだ。"ムーンライダーズ"の名の元に全てが許されるわけではない。そんな 甘えは必要ないし、彼らだって望むわけがない。全身全霊を傾けたアクシデントだから こそ、僕らは笑うことができたんだ。

空前絶後の『いとこ同士』。正真正銘のメモリアル・ヴァージョンとして消せない記憶 がまた一つ増えた。彼らにとってもそうだろう。僕はもう何があろうと忘れやしない(笑) この記憶を抱きしめたまま、墓場まで連れていくつもりだ。

顔を見合わせるメンバーたち。一瞬の間をおいてシーケンサーが走り出す。 "誰が最初 にくたばるか" なんて、悪い冗談にもほどがある。タブーでさえも彼らにはリソース。 『Who's gonna die first?』。はがねの強靭さを内に秘め、ギターのリフが暴れ出す。 こだわり続ける愛の先に、いったい何が待っているというのだろう。"果て"にたどり着 いたというのも重いジョークに違いない。ダルなハウス・ビートが一つ階段を飛び越す と、続いて現れるのは『真夜中の玉子』。オーガナイズする良明さん。吠える、煽る、 飛ぶ。中空に浮かぶコーラスと、大地を疾走するヴォーカル。ジャパ・マフィンからラ ガ・マフィンへと、一足飛びに『渋谷狩猟日記』。息吐く間もない魚藍マンが上昇する 体温を鼓舞しつづけている。歴史を語るのは心老いた者にまかせておけばいい。ギタリ ストは熱く熱く燃え上がるのだ。

怒涛のミクスチャーに続き、次なるリボリューションが百億の色をぶちまける。野音が 揺れる"ヤー"の叫び。『スカーレットの誓い』に荒れ狂う、千切れんばかりの旗の波。 いつか薔薇が無くても生きて行ける日が来るのだろうか。月下に咲くそれには危険なト ゲがある。知らずに笑い飛ばせるならそれでいいけど、一度足を踏み入れたルナティッ ク・メイズには、出口なんか無いんだ。打ち振られる無数の旗に、結束の歌が染み込ん でいく。

アニバーサリー・フラッグにもあしらわれている"くそったれ"のエンブレム。19年目 の団結の歌『Damn! MOONRIDERS』。孤高の自嘲は揺るぎ無い自信の裏返しだ。たたみか けるように続くスタンド・アップ・プリーズのナンバーに、人波は黒い塊となって揺れ ている。くたばれ!こんな夜に。くたばれ!愛を込めて。

一転ステージに静寂が訪れる。興奮覚めやらぬ歓声があちこちで余韻に火を燈す。

火の玉ボーイからコモンマンへ。稀代の旅人は何を求めてきたのだろう。20年目のこ の夜に、さりげなく差し出される一通の手紙。今、彼は一行の詩を手に『黒いシェパー ド』を追いかける。続いていく果てを見つめる瞳は、光り輝く二つの切れ目となって。

途中から華麗なストリングスでサポートに入ったフルムーン・クァルテット。今、弦楽 四重奏の『Acid Moonlight』に送られて、裸の月光下騎士団が帰って行く。

野音中に鳴り響く拍手。取り乱した激しさや煽りかける圧力は感じられない。20年を 共に旅した彼らへの謝意な愛に満ち溢れているようだ。両手で伝えるパーカッションは、 やがて緩やかにビートを揃えていく。