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「ほら、あそこ」 いきなり肩を引っ張られる。僕の大切な女友達が、林立するビルの隙間を指差している。 はたしてそこには、フル・ムーンのように丸くて大きな月が顔を出していた。 武川さんが指差していたのはこれだったのか。第3部の途中で、メンバーたちがみつめ ていた月。慶一さんの「ほら、満月だ」という声に首を回しても、僕らはまみえること ができなかった。客席からしきりにあがる「見えな〜い!」の声に、「え?見えない? そうか... 」と残念そうなお慶び一氏。その落胆ぶりが気の毒で、愛しくて、必死に見 回してしまった空。 「なんだ、そんなところに隠れていたのか」 月に一瞥くれてやる。だらしなく綻んだ口元で。 徐々にテンポを揃えていく数千の手拍子。割れんばかりのツービートが響く中、彼らは 再び戻って来た。待ち構えた無数の光が注ぐ、20thアニバーサリーの旗の元へ。 会場内の左側後方にはテント小屋が設けられ、数々のライダーズ・グッズが売られてい る。おそらくは史上初であろうライヴ・パンフレットに始まり、バッグ、ペンダント、 バッジ、得体のしれないビニール・ジャケット(笑)等々、その種類も豊富に並んでいる。 もちろん、この日のために作られたものばかり。彼らには似合わない気がしないでもな い、が、嬉しい欲しいこの手にしたいと、僕らのわがままは実に正直だ。 「グッズを買い過ぎた人たちのために...」 悪戯っぽく笑う慶一さん。幾重にも絡み合いながらステージに注がれる歓声。火の玉ボ ーイズのテーマ・ソングが、今静かに野音を包み込んでいく。瞼を閉じて空を見上げる 人がいる。20年来の月下彷徨人たちの、胸の鼓動が聞こえてくるようだ。俺達は『ス カンピン』。いくつになろうと、どこへ行こうと、ポポンがポンでモモンがモン。うら ぶれたコーラスを抱きしめながら、時よ止まれと馬鹿な願いをそっとつぶやきたくなる。 浪漫のデジャ・ヴにまみれた後は、消えない傷へのトリヴュート。『エレファント』に 仕掛けられた暗号を15年経って噛み締める。16年前の冬に走った雷鳴が、ほんの少 し僕の心を押し黙らせている。今日、彼らが無事あることに、誰彼構わず感謝したい。 重ねた歳に対峙する、オーバー40の黙示録。世界一の"ヘイッ!"が夜空にこだまする 『HAPPY/BLUE '95』。裸身を晒すザラザラな心は、ブルーに染まったコナゴナの街を走 り続けている。H・A・P・P・Yの文字を、そっとポケットに忍ばせて。 まさしく等身大の彼らが締めくくる、20年目のアニバーサリー。 鳴りやまない拍手が"ありがとう"の言葉に代えて送られ続ける。今、ここにこうしてい られることを頭の芯に刻みながら、僕は感覚を無くした両手を打ち鳴らす。 もう何度目だろう。腕を振りかざしながら尚も現れる彼らの姿。観客席に向かい、あり ったけの"ありがとう"が返ってくる。何倍にもして投げかえしたい。リボンをつけて、 言葉にならないメッセージを添えて。 1996年6月2日。日比谷野外音楽堂に『くれない埠頭』が響き渡る。 残したものも 残ったものも 何もないはずだ 夏は終った − 作詞:鈴木博文 − 今日という日が終わりを告げる。連綿と続いていく日常の中のワン・シーン。やがてど の空も朝を迎え、僕らは365分の1だけ歳をとる。 繰り返されるネイティブ・ルーティン。生き続けていくことにどんな意味があるのだろ う。死を迎えるまで抱えていくのは疑問符のトランク一つ。 残したものも、残ったものも、何もないはずの野音に、再びシェスタの二人が現れる。 夜空に響き渡る『Acid Moonlight』。弦とアコーディオンが奏でる最終夜曲。やがて最 後の音が闇に消えていく。深々と頭を下げる二人。会場に灯りが戻ってくる。 20th Anniversary at 日比谷野外音楽堂 この、ほんの一コマの記憶を、拾い集めてここに置いていこう。 彼らと暮らす、これからを抱きしめるために。 in the early morning, June 17 '96 swing //HHG02306@niftyserve.or.jp// //okamoto@tcp-ip.or.jp// Special thanks to "70's J-Rock Information HP" organized Lunatic space "FBEAT" at NIFTY-Serve my friends under the moonlight and my girl under the same roof |