| 「Dire Morons TRIBUNE」
ムーンライダーズの新作『ダイア・モロンズ・トリビューン』は、
6人がミュージシャンでありソングライターである根本に回帰し、
なおかつそれが時代性に直面した様が浮き彫りになった
ロックバンドならではの意欲的作品です。
ライダーズがこれを作りたかったというよりも
時代がこれをライダーズに作らせたという気がします。
その素晴らしさには大変驚かされました!
はっきり言って実は新作には全然期待していませんでした。
前作の6人6様のミニアルバムには失望していた者としては、
「あの良さがわかんないならファンじゃない」と言われようなら
僕のライダーズ熱ももはやここまでかと覚悟していたほどです。
ところが3年振りのオリジナル・フルアルバムは実に見事でありました。
このアルバムでのムーンライダーズは、
ミュージシャンとしての集合体である
根本であり最大の武器である部分を取り戻しています。
もちろん打ち込みも使用していますし、
エディットした部分も見受けられはするのですが、
バンド・サウンドであることは一貫されていると思います。
生演奏を主体にしているからこそ
前述の6人6様の死生観や時代性がことさらに体現されており、
僕自身にはそこが最大の聴きどころに感じました。
ただ内容が重くて暗いとは断じて思いません。
たしかに歌詩は死生観や先の見えない現在の風潮が
見事に捕らえていてヘヴィではあります。
アルバム1枚通してレクイエムを奏でているかのようです。
でもライダーズの詩世界がヘヴィなのは
今に始まったことではありませんし、
ライダーズがヘヴィな方向を趣向しているというよりも
それ以前に現代社会がライダーズよりもヘヴィなのです。
ですからその辺が歌に反映されるのは
ポップ・ミュージックとしてごくごく健康であり、
むしろ当然のことだと僕は思います。
むしろ僕には今回のアルバムの音世界は
非常に軽やかなフットワークで創られたように聴こえました。
しかも特にゲスト・ミュージシャンを招かずに
基本的にメンバーだけで録られたサウンドは
『dis-covered』よりも徹底されていますし、
ミキサーが複数いることで若干の温度差はあるものの
トータリティある内容に仕上がっています。
その辺りの軽やかさであり、
また独特な湿り気のあるサウンドが
ティンパンのアルバムと対になるような感じがしたのは
僕だけなのでしょうか?
歌が一要素でしかないティンパンと
歌(詩)ありきのライダーズ。
僕には非常に興味深い比較対象なのですが。
ところでライダーズのアルバムには
何かしらの新しい技術やテクノロジーだったり、
はたまたど肝を抜かれるような突拍子もないアイディアが
反映されていることが多いのですが、
新作『ダイア・モロンズ・トリビューン』に関しては
ぱっと聴いた限り特に新しく思える部分がありません。
いろいろと編集はされているかようですが、
生身のバンド・サウンドである部分は一貫されています。
でもこれが何より特筆すべき点なのです!!
バンド・サウンドとしての軽やかなアプローチが全編漲り、
同じ凝ったことをやるんでも“打ち込みでやるのと生演奏とでは
まったく説得力が変わるものだな”と感心してしまうほどです。
いちばん顕著に出ているのはやはりかしぶちさんのドラミングでしょう。
かしぶちさんならではのタイトで切れ味の良いドラミング、
さらにいつも以上にフィーチャーされたくじらさんのヴォーカルは、
今回のアルバムのムードを決定づけている重要なファクターになっています。
たしかに新しい技術やテクノロジーを使いこなす
常に先駆者であるライダーズも魅力的ではありますが、
その反面でミュージシャンとしての生身の演奏性が
スポイルされていた弊害がどこかあったと思います。
特にかしぶちさんのドラムに関しては、
毎回ライヴではたっぷり堪能できるというのに
アルバムではあまり聴けないというジレンマが僕にはありました。
それこそ10年以上ずっと待っていたのです。
“この曲は生ドラムだったらもっと良いのになぁ…”っていう
リズム面でのもの足りなさを感じていたのは僕だけなのでしょうか?
その辺りの僕自身の葛藤や鬱憤を見事に解消してくれたのが
この『ダイア・モロンズ・トリビューン』なのです。
『B.Y.G. HIGH SCHOOL B1』で「LOVE ME TONIGHT」を
初めて聴いたときに得た“かしぶちドラミング”の感動、
それが徐々に増長されてきて今回のアルバムで大きく弾けた気がします。
『dis-covered』も生バンドがフィーチャーされていて良かったのですが、
ややラフで掘り下げ方が甘い感じがしたものです。
しかしながら『ダイア・モロンズ・トリビューン』では
その辺が徹底されているのみならず、
「月夜のドライブ」のリメイクで接近したブラジリアン・ビートにもトライし、
(バンデイロが多用されていたりと、ブラジリアン・ビートの影響は全体的に
非常に濃く出ています)
さらに同期を含めた様々なパーカッションを加えての
リズム・アプローチをしつつも、
それが生身のグルーヴをかき消すような誤ちをおかしてはいません。
シンプルなようでいて実は非常に音数の多い仕上がりに感じますが、
それでいてあくまでバンド・サウンドとして仕上がっているから凄いのです。
聴くたびに新たな発見があるのはいつものライダーズですね。
テクノロジーなどの部分では特に目新しくないとは書きましたが、
このアルバムのサウンドが今だからこそ体現できた
現在型のサウンドであることは間違いありません。
今回はそういった部分よりもソングライティング面や
アレンジ面に関して新境地と思える部分が目白押しです。
特に歌詩に関しては極力説明的なアプローチを避けており、
インパクトある単語やフレーズの積み重ねにより
トータリティある詩世界を作り出していると言えます。
正直、良明さんだけちょっと浮いている気がしましたが(笑)、
あくまでそれは言葉選びや言い回しが良明節ってことで
決して内容が異質なわけではありません。
ただ、他の曲は誰が何を書いているんだか
判別できないくらいのトータリティがあります。
そして死の臭いがあります。
でも例えば「バックシート」とかの死の臭いとは違うのです。
いつか死ぬとはわかっていても生きなきゃいけない、
いや、生きたいという気持ちはある、
ある種のカオスを抱えたリアリティあふれる人間像なんです。
つまり自虐ではなく、宿命としての死を抱えた人間像であって
その辺が今の時代性と呼応する部分でもあります。
そういう意味ではライダーズ史上で
もっとも“生”に執着したアルバムにも思えます。
メンバー自身の内面がダイレクトに出ているのかもしれません。
ですから僕にとってこのアルバムは生活の糧になるような
パワーを与えてくれる作品なんです。
特に「Lovers Chronicles」は凄い! 感動しました。
そういえば、今回のアルバムを聴くちょっと前に
ラジ@の番組「サエキけんぞうのお宝音源御開帳」で
良明さんのアルバム・ボツ曲が流れていたのを聴いたのですが、
「何でボツるの?」と疑問に思うほどポップな良い曲でした。
ただ、たしかにあのポップさではこのアルバムには不似合いです。
つまり『青空百景』『A.O.R.』『月面賛歌』のような
口当たりの良いポップ・ソング的解釈は
今回敬遠されたんではないでしょうか?
濃密な歌は博文さんのソロを彷佛させるようなところがあります。
「Flags」「棺の中で」など博文曲が多いのは、
やはり博文さんの世界にライダーズが引き寄せられた証でしょう。
とはいえ、決してポップじゃないわけではないんです。
聴けば聴くほど濃厚な味わいが出てきます。
「天罰の雨」は個人的にヴォーカル・エフェクトが過剰に思えて
もっとストレートに歌が聴きたかった気がしていますが、
ライダーズならはの美しさと屈折感が堪能できる名曲です。
やけにゆっくりなフェイドアウトも印象的な「今日もトラブルが…」、
陰鬱ながら何かを癒してくれる「Blackout」は見事な慶一節だし、
とりわけ「Lovers Chronicles」は究極の哲学的ラヴソングだし
ポップ史上重要なフレーズが幾つも出てきます。
3人称で書かれた「curve」はかしぶちさんの新境地だし、
良明さんの「静岡」は束の間の安らぎを感じさせてくれるし、
タイトルに思わず仰け反っちゃうくじらさんの「僕はそんなに馬鹿じゃない」は
ホールトーンスケールのフレーズがこの上なく美しいです。
この曲に限らず間奏が素晴らしい曲が多いのも今回のポイントですね。
「che なんだかなあ」では慶一さんとかしぶちさんのツインドラムスだったりと、
生演奏ならではの遊び心を垣間見せてくれるのも嬉しいところです。
そしてアルバムのフィナーレは予想外のディスコ・ビートによる
岡田さんの「イエローサブマリンがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」で下ろされます。
天罰の雨であふれだした大洪水を漕ぎ出す、
僕らにとってのノアの箱舟は
イエローサブマリンなのかもしれませんね。
その行く手は波乱万丈かもしれませんが、
愛する子供たちを抱きしめての航海なのです。
決して孤独な旅立ちではないところは大きな意味があると思います。
ただしイエローサブマリンは1台あれば充分なのでお忘れなく。
ちなみにシークレットトラックでガカンとリョウメイによる
1分間のシークレット・ライヴの模様が収録されていますね。
まぁ、これはオマケなんでしょうけれど。
重複しますが、僕にとって今回のアルバムの印象は
あくまで「軽やかなもの」でありました。
あまり暗いとか重たいとかっていう固定観念を
容易にあてはめて欲しくないですね。
ただ欲をいえばヴォーカル・エフェクトの処理は少々やりすぎに思えます。
せっかく歌詩のアプローチが斬新だったわけですし
もっとストレートな歌を聴きたかったです。
このアルバムがセールス的に大きな成功を収められるかと訊ねられると、
正直、僕は苦戦を強いられるだろうと思います。
ただ、冒頭で書いたように、
ライダーズがこれを作りたかったというよりも
時代がこれをライダーズに作らせたという気がします。
その意味で『マニア・マニエラ』や『最後の晩餐』に匹敵する
エポック・メイキングなアルバムと言えるでしょう。
「これぞまさしくムーンライダーズ!」的な代表作として
愛されるようになるのは時間の問題でしょうね。
最後に苦言を書くならば、アルバム・タイトルが
もうちょっとわかりやすいものにならなかったのかなぁっていう。
アナグラムにする必然性も見えないし、
どう考えても大して意味があるように思えないんですが。
『天罰の雨』とか『Lovers Chronicles』とか
凄く意義深いタイトルの曲があるのにその点は残念でしたね。
しかしながら、それらの点を除けば、
僕にとっては本当に心底満足できる内容のアルバムでした。
ひょっとしてライダーズのラスト・アルバムという
仮定で作り上げていたりして・・・いや、ありえるかも。
聴きこめば聴きこんでいくほど人生が変わってゆく、
ちょっと怖いもの見たさ的な魔力のニューアルバム。
この喜びをひとりでも多くの真摯なロックファンと
わかちあえたらと思います。
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