#PCD1334
プードル

クリス
Chris

(1984)

Original Release 1984.04.21
Disc Number VIH-28167
Lavel Invitation
Manufacturer Victor
 ムーンライダーズ全員が関わっていた,モデル出身のティーンアイドルの,1984年リリースのアルバム。長らく入手困難でしたが,2000年5月にP・ヴァインレコードの「テクノ歌謡」シリーズの一環として,めでたく再発されました。「テクノ歌謡」という言葉からイメージされる音とはちょっと違い,デジタル機材の使用が一般的になりつつあり,80年前後のピコピコ音から脱してきた時代のポップ・ミュージック。レコードの時の帯には,わざわざ DIGITAL REMIX(?) の文字が,その昔の STEREO の表示のごとく,目立っています。

 先行シングルとして,1983年11月に,「クリスの日曜日 C/W あこがれファンタジア」がリリース。(ビクター インビテーション VIHX-1620)再発CDの裏ジャケットの,枠で囲まれた,正面を向いて肩を出している写真が,シングルのジャケット。シングルのジャケットを見ると,このシングルのリリース後,1983年12月に浅井慎平撮影の写真集,その前11月には,写真集のロケでの同時撮影らしきビデオのリリースも告知されていて,アルバムがリリースされた頃には,最近では「バウンスkoGALS」などを撮っている原田真人監督の日独合作映画「ウインディー」が公開と,なかなか力が入っていたのです。

 レコード制作にあたっても,単なるモデル出身の女の子がデビューするという場合とは違い,水準以上のクオリティが求められていたのではないでしょうか。モデルや俳優がレコードを出すとなると,シングルはともかく,アルバムはお手軽にカバー曲を何曲か入れて,みたいな作りが,今も昔も少なくありませんが,この「プードル」は,全10曲書き下ろし。それに,タイトルに「クリス」とついた曲が3曲も。しかも,背伸びをしている10代の女の子というコンセプトが強く指示されていたかのように,歌詞の中の主人公である女の子の性格づけ,行動が,6人の作詞家によって作られているのにもかかわらず,共通しています。歌詞だけでなく,音作りももちろん,アイデア豊富に練り上げられたものです。

  アルバムリリース前に,セカンドシングルとして,「春のめざめ C/W クリスのララバイ」がリリース。おすまししていたファーストシングルと違い,目を見開いて驚いているかのような,笑顔のジャケット。このセカンドシングル「春のめざめ」からアルバムは始まります。作詞は元サンハウスの柴山俊之,作曲はパンタ,というクレジットからは想像もつかないかもしれないポップな曲で,柔らかい感触の音で組み立てられた,さわやかな曲。パンタは鈴木慶一プロデュース作で,杏里や野宮真貴にも曲を書いてましたが,82年の岩崎良美のシングル「Vacance」(最初はB面リリース)などアイドルにも曲を提供していました。

 2曲目の「夏にLai Lai I Like You」は,ムーンライダーズ以外の何者でもない曲。このアルバムで最もライダーズ色が強いといったら,この曲でしょう。岡田徹編曲ですが,白井良明大活躍の1曲。この時期の特徴のある太くて軽いギターの音色,フレーズが満喫できます。同じ84年リリースの,NHK「レッツゴーヤング」のサンデーズのメンバーだった,山口由佳乃のアルバム「ユー・キャント・ノー」収録の,「あわてさせちゃう」という曲では,白井良明本人の編曲で,同じ作りのサウンドが聞けます。作詞の高橋修は,別名フォックスでイラストを書いていた人で,「水族館」と「博物館」のジャケットはこの人が書いたもの。ハルメンズ,VOICE,ポータブルロックなど千葉系バンドに作詞をしていました。ムーンライダーズとは,「YENクリスマスアルバム」での,「銀紙の星飾り」があります。

 3曲目の「あこがれファンタジア」は,ムーンライダーズお得意のツイストもの。鈴木博文の歌詞は,少女に合わせてメルヘンチックな小道具が散りばめられているけれど,夜明けに虹の橋を渡っていくくだりは,自身の色をちゃんと出しています。

 続く「似てない似顔絵」,「プードル」は,アコースティック楽器と打ち込みのコンビネーションが素晴らしく,しかも楽器の組み合わせにひとひねりあって,まるで,これを機会にいろいろ実験してしまっているよう。決してぶ厚い音ではなく,むしろ隙間のある音作りなのだけれども,いろいろな音を効果的に鳴らしています。並のプロデューサー/アレンジャーとは一線を画するセンス。そうした音作りは,「アマチュア・アカデミー」にも通じるもので,84年の2月まで行われたこの「プードル」でのセッションで,プロデューサー鈴木慶一と共に編曲を担当した,岡田&白井の2人が,時期的に直後であろう「アマチュア・アカデミー」でも,音作りの中心となりました。レコードのA面にあたるここまでの方が,B面に比べてムーンライダーズ色は濃厚です。

 6曲目,レコードではここからB面。「クリスの日曜日」はファーストシングル。外国ドラマでのちょっと生意気な子どものキャラクターの吹き替えの声のような,ゴロゴロした声。そんな声も,ここではとてもチャーミングです。発売時に,次のシングル,アルバムが作られるのが,とても待ち遠しくなったものです。

 7曲目から9曲目は,比較的素直な曲が続きます。7曲目は,お二人とも亡くなってしまわれた,KURO&西岡恭蔵夫妻の作。このコンビでもう1曲書いていますが,歌詞の中の女の子が,他の作詞家のものと比べて素朴に書かれています。曲も素直なロックンロール。

 8曲目の「家には帰れない」は,同じく十代の女の子の歌である,60年代中期のシャングリラスの曲からタイトルを取っているのでしょう。曲調は,それよりも少し前,レスリー・ゴーアあたりを思わせる60年代前半のガールポップ風。マンドリンのアンサンブルは,前年の藤真利子「アブラカダブラ」での白井良明編曲の「YAI YAI YAI」でもやっています

 9曲目の作詞の梅本洋一さんというのは,どういう人かわかりませんが,日本版「カイエ・デュ・シネマ」の編集長をやっていた,同名の映画評論家の方ではないですよね。派手なロックンロールながら,ややデッドな音の録り方が効果的。

 ラストの「クリスのララバイ」は,「みんなのうた」に使われてもおかしくない始まり方で,途中ジャズ風な展開に持っていくところなど,可愛い曲ながら,やはり一筋縄では終わらせません。

 レコード会社側のプロデューサーは,サザンオールスターズなどを担当し,「こんなバンドがプロになれる!」という著書もあり,鈴木慶一司会の「えびす温泉」ではバンド合戦の審査員をつとめていた高垣健でした。

古澤清人 Kiyohito Furusawa 

Produced by Keiichi Suzuki, Takeshi Takagaki
<< アルバム情報

Original Release
●1984.04.21 (LP) VIH-28167 Invitation/Victor
Re-issue
●2000.05.25 (CD) PCD-1334 P-VINE (Techno Ca-Yo Collection)
●2006.12.05 (CD) BRIDGE-075 BRIDGE (New Standard of 80's Idol Pops)


Last Modified
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