架空楽団ライブレポート




 蒸し暑いだけで、はっきりしない天気が続き、前日は小雨も降っていた、お盆休みの東京地方でした。しかし、8月16日、当日になってみると、架空楽団の20周年を祝うように、久しぶりに夏らしい晴天で、北は北海道、南は九州から、ムーンライダーズ・ファン、いやいや架空楽団のファンが、渋谷のNHKのすぐそば、渋谷公会堂の向かいにあるエッグマンに集まりました。

 100席ほど椅子が出されており、そのまわりを立見のお客さんが取り囲み、200人以上の入り。開演前の店内モニター画面には、ムーンライダーズ20周年のロゴかと思いきや、架空楽団20周年のロゴが映し出され、開演前の待ち遠しい気分を盛り上げます。

 ステージにメンバーが登場するや、ひときわ目を引く、ギターの黒瀬さんの金髪。始まる前から場内は騒然。

 オープニングは、国平さんのみならず、ベースの石原さんまでトランペットを吹き鳴らしての「Frou Frou」。スタートから、いやがおうでもの盛り上がり。ギターもドラムもキーボードも、忠実にライダーズ。三日間ともこの曲で総立ちになった日本青年館の「ドントラ」ツアーを思い起こしました。

  歓声の中、ヴォーカルの山田さんの「こんばんは、架空楽団です」のあいさつもそこそこに、間髪を入れず、打ち込みが「AOR」ツアーの時を思わせる「Kのトランク」へと続きます。オープニングで盛り上げといて、その盛り上がりで落ち着かずに、しかも持続させるようなビートの曲でつなぐという、ただムーンライダーズの曲をやる、というのではなく、ライヴとしての構成も考えた、さすがに20年の歴史のあるバンドです。

 続いて、ムーンライダーズがやらなくなっているレパートリー。架空楽団の重要な存在意義の第一は、まずこのような曲を演奏することにあるでしょう。聞きたいのに、本家はやってくれない。ならば、自分たちでやってしまおう。と演奏してしまうことで、聞いている私たちにも、意表をつかれた嬉しい喜び、改めての曲の良さの再発見をもたらしてくれます。今回、何曲かそういう曲がありましたが、まずは「沈黙」。郵便貯金ホール・ヴァージョンでの演奏ということでした。エンディングの、佐藤さんのヴァイオリンと石原さんのベースの掛け合いがスリリングでした。

 ここで、まず最初の「あがた森魚」コーナー。ここまでの3曲が、山田さんにとっては、このためのウォーミングアップだったかのように、ヴォーカルの生き生き度が俄然増します。身振りもあがたさんが乗り移ったかのよう。特に手の動かし方がそっくりです。導入部での、お客さんとの「おーい」の掛け合いで、徐々に盛り上げていき、1曲目は「ベスパップスカウト」。コーラス隊+国平さんで♪まーるとーさんーかくのーすーみれーだん のところは、振り付き。リハーサルでは越後さんを中心に練習してました。

 続いてもヴァージンVS時代の曲で、「エッフェル塔の歓び」。この曲も、VS解散後は、ご本人はあまり演奏してない曲じゃないかと思います。でも、架空楽団の演奏記録を見ると、毎年やってた時期もあるので、架空楽団としては、得意な曲目なのでしょうか。後半のギターとトランペットのソロがきかせます。



 「これから何をさせろと言うのだ」という第一声の、最初のゲストは、あがた森魚さん。黒瀬さんが、「今度、ギター作ったんです。ジパングって名前つけて。これでやります。」と言うと、ジパングボーイあがたさんは、短く「ありがとう」と一言。潜水艦のSEが聞こえてきて、あがたさんが「じゃあ、何かをやります」と言った時には、もう客席のあがたファンからは声があがって、もちろん曲は「サブマリン」。歌い始めてまもなく、コーラスの位置に移動していた山田さんを、あがたさんが中央に呼んで、ステージは、二人あがた状態。間奏で、山田さんがメンバー紹介をしたのですが、「ヴォーカル、あがた森魚」と叫んだ時の山田さんの嬉しそうな様子といったら。これを言いたいがために、あがたさんがゲストに入るこの曲で、メンバー紹介を入れたのでしょう。歌い終わっての、あがたさんの、「架空楽団、ありがとう」の声も、満足そうでした。

 場内興奮の中、黒瀬さんの弾く印象的なイントロで始まったのは、はちみつぱいの「薬屋さん」。中心メンバー3人は70年代から始めているだけあって、ぱいの頃のフォークロック風な曲も、身体にしみついてるような、なかなか味わい深い演奏です。佐藤さんのヴァイオリンも、和んでました。それにしても、またしても、忘れられがちな名曲を選んできます。正直言って、こんなにいい曲だったっけと私は思ってしまいました。

 続いて、石原さんが
「ムーンライダーズに、1年遅れて白井という男が入りました。曲を書いてもなかなか採用されなかったんですが、やっと採用されることになった、その曲は」
と、客席に問いかけて始めたのは、黒瀬さんが没になりかけたのを死守して演奏曲目に残したという「ディスコ・ボーイ」。ライヴでも演奏されたことがない、ということは、この日の架空楽団がこの曲のステージ初演ということになるのかな。演奏後の黒瀬さんの「いい曲でしょ」がそのまま場内にいた人すべての気持ちでしょう。



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